ウェルスバッハって、誰?ウェルスバッハの名前を知っている人は、いまではほとんどいないだろう。しかし、科学の歴史に名を残すほどの学者であり、現在にも残る数々の発明を行なった発明家であり、しかもその製品を世界に販売して事業家として成功した人物は、過去にもまれであろう。彼の興した会社は100年以上を経た今日でも、オーストリアに存続して事業を行なっている。これほど長く事業が続いている老舗の製造会社もまた、めずらしい。いわば大学発のベンチャー企業の成功者としても、歴史に残るパイオニアである。科学者としてのウェルスバッハは、四つの「希土類元素」、すなわちネオジウム(刈)、プラセオジウム(皆)、イッテリビウム(W)、ルテチウム(U)を発見している。彼は基礎的な研究だけでなく、希土類元素の産業への応用にも人生を捧げた。白熱ガス灯はその一つであり、現在でもライターなどに使われている「フリント」(発火合金)も彼の発明である。彼がエジソンに先駆けて金属フィラメント電球を製品化したのは、もっと強調されてよいことである。また、電球を開発する過程で考案した、融点の高い金属を加工するための「粉末冶金法」(金属を粉末にして加工する方法。今日ではなくてはならない重要な加工法である)は、のちに米国ゼネラルーエレクトリック(GE)社のウィリアムークーリッジにも踏襲され、「第2の白い光のイノベーション」となった「タングステンフィラメント電球」に結びついている。ウェルスバッハは科学と技術と産業への貢献によりバロン(男爵)に叙せられている。また、彼の肖像はオーストリアの切手や紙幣にも登場し、彼の名前をとった博物館や彼の名前を冠した学会賞も創設されている。エジソンと並ぶ、まれに見る発明家であり企業家であったのだが、しかしエジソンとはちがって、いま、ウェルスバッハの名前と業績を知っている人はほとんどいない。学者として、発明家として、企業家として、彼はどのような人物であったのか、そして、どのようにして白い光のイノベーションを起こしていったのであろうか。