ローマ道が網のようにのび、人々の往来が頻繁になり、交易が盛んになっていった。町や村には要塞が築かれ、キリスト教会や学校が建てられ、原住民のことばもラテン語にとって代わられたのである。ポウサーダの玄関を出ると、すぐ前にローマ人の手によるディアナ神殿がある。二世紀末に建てられたコリント様式の神殿は、イタリアやギリシヤの遺跡にくらべると可愛らしいほどに小さい。約一〇〇年前に修復されてはいるか、円柱の柱頭と基部には大理石が使われている。ディアナ神殿は名の通り、女神ディアナに捧げられたものとされているが、ディアナはローマ神話の月の女神(ギリシヤ神話のアルテミス)で、狩猟、森林、野獣の守護神である。神話によれば、彼女は永遠の処女で、少年のような激しい気性をもっていた。彼女が川や池で水浴をしているところを男がのぞき見しようものなら、彼らはひどい報復を受け、その罰として女にされてしまった者もいるという。なかには鹿に変えられてしまい、五〇匹の猟犬にずたずたに噛み裂かれてしまった男もいる。ディアナが姿を表すのは月の照る夜である。その時は、野獣も草木も踊りだすのである。ディアナはかなり恐ろしい女神なのだ。月夜には彼女のご機嫌をとろうと、総てのものが必死に、最高の舞を演じたのではないか。神殿を見上げながら、そんなことを考えた。