「一〇年」の方も、説明しよう。かつて本(『意思決定と合理性』ハーバート・A・サイモン著、佐々木恒夫・吉原正彦訳、文佻堂刊)で読んで非常に印象に残っているのだが、ハーバート・A・サイモンらの研究によると、ノーベル賞を取った学者の中でも超一流の学者、モーツァルトのような芸術家、チェスの世界チャンピオンのような、世界的に「傑出した仕事」をした人について調べると、「一〇年あるいはそれ以上の期間の、その分野へのひたむきな注意の集中」が見られたという。
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たとえば、モーツァルトは、一七歳ですでに世界的に認められる曲を書いているが、彼は、四歳のときにすでに作曲しており、一七歳までには一三年程度の音楽教育を受けているはずだと考えられている。将棋や囲碁の天才も10代後半には頭角を現すことが多いが、ほとんどの場合ゲームを覚えたのは幼少の頃であり、トップレベルに達するまでには、一〇年程度の修業期間があると思う。一〇年は何をするために必要な期間なのか。サイモンは、一つの知識に対して「チャング」という独特の単位を考えたが(一つの命題で表せる知識がIチャングというような感じのものだ)、世界的に傑出した業績の達成者たちは、それぞれの分野にあって約五万チャングを獲得しているという。この五万チャングが何に相当するかというと、教養人の自国言語におけるボキャブラリー(語彙)数に相当するのだという。推測だが、たとえば、囲碁の世界チャンピオンである韓国のイーチャンホ氏は、囲碁のいわゆる「手筋」で、普通に話す言葉のように使いこなせるものを五万くらい持っている(単に知っているという以上に、肉体化して持っている)ということなのだろう。