幸せな結婚というのは、やっぱり長続きする結婚というのが一つのかたちではないかと思う。では、長続きさせる条件は何か。よく性格が合わないから別れるというけれど、どうかしら。私などは性格が正反対なので長続きしたと思っている。友達づき合いは、性格の合った方がおもしろいけれど、自分の分身のようで長い時間一緒にいるとくたびれてしまう。私の家のように無口な夫とおしゃべりの妻。山登りは嫌いな夫と好きな妻。甘いものの好きな夫と嫌いな妻。整理の上手な夫と下手な妻。それで一緒になると、多少お互いに異質な人間としての興味をかきたてられるのではないかしら。結婚生活を長続きさせる条件に、お互いに相手に興味を持つということがある。そしていつか湧いてくる愛情。私などはその始めはあまり愛情などなかったと思う。ただ夫の才能への尊敬だけがあった。そのうち私が実家に帰ったらこの人はあとどうするだろう、と思うようになってきた。たぶんそれが愛の目覚めなのだと思う。それまで私は男の人を愛したことがなかった。自分の方が大事で、男のために自分の時間や感情を割くのはいやと考えていた。夫の家にも、その頃あった縁談の中で一番裕福だったから、行ったら好きなことができるということを条件の一つにしたのである。私の母は、私にお手伝い二人置けないような家には行くなと言っていた。ところが行ってみると、意外と田中の父が好きなように金を使わせてくれない。実家よりずっと暮しが地味である。夫には愛情を持てるようになったが、ずいぶん長く夫の家の家風は嫌いであった。それが十数年経つと、夫の母を尊敬し、夫の父に感謝するようになったのだから、やっぱり離婚しないでよかったと思い、それが結婚生活のおもしろさだと思う。その十数年というのは、戦争で夫の家が経済的に没落し、私の嫌いだった貧乏暮しをするようになってからだから、まったく自分でも意外である。当時、没落した婚家を見捨てて離婚する女が大勢いた。逆に私は経済条件が変わったから離婚するなどとは恥だと思い、没落して世間に出て働かなければならなくなってみると、今まで、たとえつましくても外に出て働かずに食べさせてくれたことを、ありがたいと思えるようになったのである。
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