披露宴のスピーチは、あらかじめ依頼しておくのがエチケットですが、ときには披露宴の席上で突然指名されることもあります。最近は司会者が若くて世間慣れていないため、当日までスピーチの依頼を忘れていたなんていうことがないともいえません。突然だのまれるのでは、たいへんな迷惑ですが、「用意がないのでスピーチはできません」と断わるのはカッコわるいし、第一、お祝いの席では失礼ですから、即席でやらないとぐあいが悪いでしょう。「おめでとうございます。私は、ドイツの作家のヘルマン・ヘッセのいった『夫婦とはお互いに見つめ合う存在ではなくて、ひとつの星を二人してながめるものだ』というロマンチックな言葉が大好きです。だから、お二人にこの言葉をお贈りしたいと思います。どうぞいつまでもおしあわせに暮らしてください」このくらいのスピーチは、いつでもしゃべれるように用意しておけば、指名をおそれてピクピクしていることはありません。このヘッセの言葉のように、文学作品中の名文句や、古人の和歌、俳句、あるいは金言やことわざを引用したスピーチは、話をわかりやすく、印象的にするという効果があります。ところが、その語句や解釈がまちがっていると、かえってその人の学問や知識の浅さをバクロしてしまいますから、正確なことを話さればなりません。ある披露宴で、主賓が「殷鑑遠からず、お二人は媒酌人ご夫妻を見習って仲よく幸せにお暮らしください」と話しましたが、殷鑑とは、その前代の悪い王様がさんざん暴政を行なってついに亡びたという戒めですから、どうもめでたい結婚の席や、仲のよい媒酌人夫妻にはふさわしい形容ではありません。こういう点を慎重に調べた上で話すことが大切です。