幼児期の子どもたちを対象とした異文化間教育の必要性は、1975年にアメリカ合衆国マサチューセッツ大学のボブ・スズキによる「多文化教育」の講義に触発されたラムジイによって本格的に提唱され、1987年に一冊の単行本にまとめられた。ラムジイの単行本が出版された1980年代の終わり頃から、保育を専門領域とする研究者らの功績により、「多文化教育」の理論的な枠組が、保育実践に引きつけて論じられるようになる。ところが、第一線で活躍する多文化教育の研究者たちが乳幼児の保育について言及することは、当時のアメリカ合衆国においてもまれであった。また、そうした研究者たちから何らかの提言がなされても、保育関係者からみると、傲慢でどこか物足りないものになりがちであった。なぜなら、それらの提言は、いったん確立された専門分野の理論をそのまま、保育実践の評価や批判の道具として用いており、実践のなかで理論を問い直す手間が省かれていたからである。そのような専門家たちは、保育という営みの社会文化的な側面への理解や関心も乏しく、現実とかけはなれた子どものイメージを前提としていることが多かった。そのため、「(実践が)わかってない」という保育関係者の印象を免れず、せっかくの提言も保育実践との接点が描けないまま平行線をたどっていた。
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